塗膜研磨における綺麗を考える

1.綺麗とは何か? 1.1.綺麗の限界

1)何故、研磨処理をするのか?

私たちは、自動車塗膜を磨きます。カーディテイリング業に於いては、コーティング加工の前処理や中古車の商品化*1 や納車時の外観の不具合の補修のため、鈑金塗装業においては塗装後の塗膜の補修研磨として行います。保護剤であるコーティング加工をするためには、小傷やクスミの無い保護に値する綺麗な状態の塗膜にすることが必要でしょうし、中古車を展示・販売する場合には、傷がなく綺麗で、ツヤが深いもののほうが、傷が多く汚れた外観のものより価値があるため購入予定のユーザーの目を惹くでしょうし、新車の納車時には、作りたての新車に僅かな傷や雨染みがあることも、嫌われるからです。鈑金塗装業においては、塗装の不具合(ブツや垂れ、肌)を研磨用ペーパーにて研磨して整えた跡のペーパー目消しの研磨作業において磨きます。

これらの場合に磨く理由は、傷やクスミを消してツヤを出すため、つまり、塗膜を綺麗にするためですが、「際限なく綺麗になる分けでなく、何処まで綺麗になるか?」を理解しておくことは、綺麗の目標や到達点を定めておくことが出来るので、必要です。

*1 中古車を店頭に並べる前に、ボディ外観とエンジンルームと室内とを綺麗にすることを、「中古車の商品化」と呼んでいる様です。

2)研磨作業の分類と綺麗の限界

産業界や工業界で行われる研磨作業は、目的によって、二つに大きく分かれます。機能研磨と装飾研磨*2 です。前者は寸法、形状を物に付与したり、面の性状を向上させる目的の研磨(例えば、「きっちり嵌るか?」、「滑りやすいかどうか?」など)で、後者は模様、ツヤなど、美しさを新たに創造する目的の研磨です。装飾研磨は、宝石や石、金属、樹脂などのツヤや模様を創るために行われます。
装飾研磨では、「ツヤの綺麗」の限界を考えるに当たって、研磨作業以前に完全な表面があるものと無いものとに分けて考えることが良いと思われます。石や金属を削り出して加工し、表面にツヤを与える切削研磨処理や、人口大理石の加工方法の様に型に流したプラスチック板の梨地の表面を削ってツヤを出す場合などは、そもそも素材を削ることで初めて完全な表面が作られる分けですから、「ツヤの綺麗」は、磨いた状態が一番良い状態の綺麗となります。所が、研磨作業以前に完全な表面があるものは、表面を一旦削って、その状態を直すために研磨する分けですから、元の表面以上には絶対に綺麗にはならないということなります。
塗膜研磨は後者に当たります。ディテイリング業の人で、「塗装された新車の状態よりも、研磨処理後の塗膜の方がボケている」というと、異論がある人もいるかも知れませんが、理由は次のことです。新車塗装表面はツヤの綺麗な状態で塗られます。研磨作業は今ある傷を消すためにバフとコンパウンドとで、少し浅い傷を付けて、今の傷を浅い傷に置き換える工程の連続作業ですから、視認不能なほど、極微細であっても、最後に接触した研磨手段が残す傷があるからです。自動車の塗装(研磨)ラインでブツ取りをして、その場所だけ研磨作業をする場合や、新車で手を触れていない状態で、一箇所に付いた傷のみを消す場合にそこだけ研磨すると、程度の差はあれ、多少ボケることは、その理由によります。

*2 研磨布紙加工技術研究会編 実務のための新しい研磨技術 オーム社(平成4年)P.1~2 要約