塗膜研磨における綺麗を考える

1.綺麗とは何か? 1.2.自動車塗膜研磨作業の意味

自動車塗膜研磨作業の意味

一般的に研磨工業界において、研磨は、(物の)「表面の性状を第一義とする砥粒加工行為」*1 と言われています。また、私たちが現実に研磨作業をする場合に、傷を消してツヤを出すことを目指すことから、「傷を消してツヤを出す行為」と言ってもよいと思われます。二者を比較検討すると、研磨布紙加工技術研究会の定義は、自動車塗膜研磨の目標が常に綺麗を目指すという1つのことにあるという点から考えると、広過ぎ、私たちが日頃、目標としているものを取り入れた定義では、その方法に触れることが出来ていないために、狭過ぎます。塗膜研磨作業をする上で、その意味を理解し、綺麗に速い作業を実現する上で、役に立つ様に定義しなおそうとすれば、「作業する人が塗膜にどのように働きかけるか?」を考えて、定義し直せばよいと考えられます。「私たちは塗膜に対して何をしているのか?」をじっくり反省することで研磨の意味を理解できるはずです。なぜなら、自分の行為の意味を、自分自身に問う分けですから。
「何故、何工程も掛けて磨くのか?」を考えると塗膜に何をしているかが明らかになります。深い擦り傷が塗膜に付いている場合や塗膜にペーパーを当ててブツを除去した場合に、研磨作業を行う時、バフやコンパウンドを交換して、何工程も掛けて磨いていることが分かります。第1工程目は毛バフなどと少し粗めのコンパウンドとを用いて現在ある深い傷の上からポリッシャを当てて、研磨処理をして消し、その後、第2工程目にはもう少し表面素材がきめ細かいバフと比較的細かい砥粒のコンパウンドで磨き、更にその後の工程は、更にきめ細かい素材の材料で磨いて少しづつ傷を目立たなくしていることが分かります。これは、目標とした傷を消すために、「今、付いているところの消そうとしている傷よりも、もう少しきめ細かい傷をバフとコンパウンドとで付け続けることを繰り返す」ことで傷を消そうとしているためです。
一般的に研磨処理と言うと、塗膜に付いた傷部分を連統的に研磨して見えなくし、艶を出す処理の様なイメージが強いですが、厳密に言うとその様な単純な作業では、塗膜部分の傷を除去することは出来ないのです。何故ならば、自動車のボディ表面等に付いた傷は、塗膜に付着したものではなく、塗装がその部分だけ存在しなくなった消極的な部位であるので、この特定の「傷を消す」或いは「傷を取る」という作業は次のような工程を繰り返して処理することが必要となります。
まず、最初の段階として消そうとする「傷」部分の上面に、消そうとする「傷」より「もう少し細かい(厳密には浅い)傷」を広範囲に付け続けます。次に、この「もう少し細かい傷」 の上面に「更にもう少し細かい傷」を同様に広範囲に付け続けます。つまり、塗膜に極部的に付いた比較的大きな傷を、徐々に細かい傷に細分化しながら広範囲に広め、最終的にはこの細分化した「極小の傷」を確認出来なくなるまで切削・研磨して仕上げるといった段階を経ることになります。つまり研磨作業、研磨処理を、作業者が塗膜にどのように働きかけるかという側面から定義しなおすと、「『擦り傷やクスミ、ペーパー目などの傷を消すために、その傷よりももう少し浅い傷をバフとコンパウンドとで広範囲に磨き付けて、その傷を次の工程の浅い傷に置き換えることで消す』行為の順次な繰り返し」ということが出来ます。
正確ではありませんが、比喩的に説明すると次の図の様になります。

大変比喩的ですが、塗膜の断面を横から見た状態を考えます。例えば、塗膜面に付いた深さ10の傷を消すために、その傷よりももう少し浅い深さ8の傷を広範囲に付け続ける。すると深さ10の傷は無くなって深さ8の傷に揃う。次に深さ8の傷を消すためにもう少し広範囲に深さ6の傷を付け続けるというように、傷を徐々に細かく浅くするのが研磨工程ということができます。
この比喩は多くの真実を含んでいます。一つは「今ある傷を消すためには、一定の深さの傷を付けなければならないこと」「その傷の深さは、今ある傷よりも浅いこと」、「工程を跳ばせないこと」、「最後に接触させた方法の傷は残ること。」です。

*1 研磨布紙加工技術研究会編 前掲 P.1