塗膜研磨における綺麗を考える

1.綺麗とは何か? 1.6.良い道具と材料の条件

良い道具と材料の条件

綺麗で速く磨くことは、塗膜研磨の究極の目標です。バフ、コンパウンドとポリッシャとの三者はこの目標を実現する様に発達してきました。即ち、綺麗を速く作出することです。「研磨工程はその傷を次の工程の浅い傷に置き換えることで消す」行為の連続*1 ですから、それらのものには、研磨力がある(速い条件)だけでは駄目で、次の工程で消せる傷しか残さない能力を持たなければならないので、結局、研磨力がありながら浅い傷しか残さない能力が必要となります。

実は、綺麗さと速さとは複雑な関係にあります。もう少し詳しく考えると、傷を単に消すだけであって、仕上げの綺麗さを要求しないのであれば、それらのものは研磨力さえあれば良いということになります。逆に、綺麗さのみを目標として、速さを求めないのであれば、全ての傷が次工程の傷のみになればよいということですから、研磨力はさほど必要なく、寧ろ次工程での傷の消しやすさ、置き換えやすさが問題となるために、研磨後の傷の深さの均一性のみが重要になると考えられがちです。しかし、綺麗さを要求しない速さ(研磨力)は想像できますが、研磨力を要求しない綺麗さは実際には考えにくいものです。何故ならば、ある傷を消すために磨いて付けた傷に、予期せず数本の深いものが混じった場合に、次工程の研磨力がある程度大きくなければこの噛み込んだ傷が消せないために、最後までその傷が残ることとなります。傷の置き換えが十分出来なければ綺麗には仕上がらないのです。研磨力が小さいために作業工程を増やすことになれば、各々の工程で噛み込んだ傷が発生する可能性があるために、工程が増えれば増えただけ、噛み込んだ傷が残りやすくなることから、綺麗にもなりにくいことになります。結局、綺麗で速い研磨作業を実現したければ、研磨力がありながら浅くて均一な傷しか残さない道具や材料を用いなければならないということになります。

塗膜を「腕で綺麗に磨く」ことが出来れば良いのですが、幾ら腕が良くても、ある程度、技術は道具と材料とに制限されることになります。例えば、大きな砥粒の入ったコンパウンドを用いて浅い傷を付けようと努力しても、塗膜にバフを接触させた瞬間から大きな砥粒が接触しますから、気合で浅い傷を付けて磨くことは不可能と考えられます。または、不可能では無いにしても、多くの場合に限界があります。作業者に与えられる自由は、バフやコンパウンド、ポリッシャを選ぶことや、しっかりそれらを塗膜に当てることや、適度な摩擦を発生させるための押圧力や回転数の選択などが出来るだけで、思いの外、少ないと考えられます。

したがって、綺麗に速く磨くためには、バフ、コンパウンド、ポリッシャの設計思想や能力を十分知り、確かめることも重要となります*2。

*1 前出、1.3.綺麗の定義参照。

*2 ある意味、前出「5、本当に綺麗になっているか否かを判断する方法」は確かめる方法でもあります。