Maiの開発ヒストリー

1.はじめに

20年経った、今では、そういう質問はありません。

Maiが完成して(1999 年 12 月)から、そのデモンストレーションや塗膜研磨の講習会に行くと、Maiの銘板を見て「これはリョービのポリッシャか? リョービのポリッシャを改造したものなのか?」と必ず尋ねられました1。それまでの、リョービ(※1)のポリッシャは「ダイヤルで回転数が自由に調整できるから使いやすいが、力が無く、すぐにモーターが壊れる。」と言われていたので、ユーザー様は「Maiに関心はあるが、耐久性が心配だったのか、それともMaiの値段が高過ぎたのか。」何れかの理由で質問したのでしょう。私は、「リョービ(株)との共同開発によって作られたものだ。」ということを、詳しく説明することが、面倒であったため、「リョービ製のものを改造したものです。」と説明していました。

発売から数か月経ったある日、出向から戻った元リョービ販売の商品開発部坂上次長(※2) から私の所に喜びの連絡がありました。「市場調査に度々、通っている広島の鈑金塗装業者様に出かけた時、その方がMaiを使っていて、次長に、『リョービさんは、こういう力のあるポリッシャを作らなければいけないよ。』と諭すように語ってくれた。」という内容のものでした。彼はMaiがリョービ(株)とケヰテックとの共同開発によって出来上がったものであることを知らなかったので、その様に話したのでしょう。

共同開発の発端は、1997年頃の、リョービ販売、技術部開発課の塚本課長からの電話でした。「電気用品取締法が改正されて、電気用品安全法になる機会にポリッシャを一(いち)から作り直したいので、何か要望があるか?(※3)」というものでした。私は1992年ほどから、仕上げ用の「円心を中心とする揺動ポリッシャ」を製造販売して、全国のユーザー様に会う機会が出来、デモンストレーションをする内に、「鈑金塗装業界やディテーリング業界の研磨作業における最も大きな問題は、初期工程の深いバフ目が消えないことだ。」ということが分かり始めていました(塗膜のバリエーションもあって、今では問題がもっと多岐に渡っています)。そこでバフ開発へと向かったのですが、表面素材に使用したものが綿(コールテン)であったため、バフが塗面との間に発生する摩擦抵抗が強すぎてポリッシャが負けてしまって、適当な回転速度で回らない事態が発生していました。そのため、強力な回転力を持つことで適当な回転数でバフを回し続けられることが「バフを回す道具」であるポリッシャに必要な条件であると考えていました。そこで、チャンスとばかり「いいアイディアがあるので、一緒に作りましょう。」と答えたのです。私の様な小さな者が、その言葉を実現出来たのは、該社の当時の社長や、その先代社長(3 のお蔭ですし、リョービ (株)の基本理念の「勇気をもって未来に挑戦する」姿勢の表れと感謝しています。また、関わったすべての人たちの熱い心と不断の努力とを思い返すたびに、胸が熱くなります。

窓口であったリョービ販売、東海営業部の加藤部長、小牧営業所の布川所長の熱心な働きのおかげもあって、「史上最強のシングル回転ポリッシャを作る」をスローガンに、リョービ(株)とケヰテックとで平成10(1998)年11月11日、共同開発契約を結んで、プロジェクトは始動しました。

※1 当WEBの開発ヒストリーに於いてのみ、リョービ株式会社様・リョービ販売株式会社様の敬称は省略し、リョービ(株)、リョービ販売と呼んでいます。

※2 人物の名称は全て、架空のものです。

※3 先代の社長には研磨作業のデモを見てもらっていました。その時に「ケヰテックに注意する様に」という申し送りをして下さった様です。

2.目標について

Maiが目指す目標は、ケヰテックにて定め、合理性や、達成可能性をリョービ ( 株 ) とリョービ販売との3者で協議して、吟味していきました。私が、提案した、Maiに要求される能力(4 は、

「2.1. 可逆転式 順回転、逆回転がスイッチングで使用できる。
目的は、塗膜のエッジ部分、R・逆R部分でダウンカット出来、塗膜を剥がす危険が少なく、塗面に不必要な深い傷を付けない研磨をすること。
1)スタートスイッチのスイッチング方法(ソフトスタートか非ソフトスタートか)は試作機完成後、実験によって使用しやすいものに決定する。
2)逆転スイッチのスイッチング方法は操作性、安全性など総合的に判断して決定する。
2.2. 無段階変則式回転数
回転数は、一般塗装、高品位塗装、複雑な形状部分、広い平面、熟練者、非熟練者を問わず効率よく使用できるものとする。現在のところ、700~2300回転で検討中。
2.3. クラス最大級のトルク
トルクはクラス最大級で負荷によって回転数の低下が無いものとする。(完全フィードバック型電子制御回路使用)
2.4. 使いやすい形状
1)メイン・サブグリップは握りやすく、作業者の力を被研磨面に伝えやすい形状にする。
2)メイン・サブのグリップ位置、パッドとの位置関係は、①回転反力対する抵抗性、②ピッチ・ロール方向の反力対する抵抗性、③バフを押す力の効率性、④バフの最大友好使用範囲の広(高い)範囲性、⑤重心位置の低さを総合的に考慮して決定する。
2.5. 高耐久性
特に、カーボンブラシの耐久性とブラシフォルダーの耐久性を考慮する。
2.6. 軽い
重量は2kgを目標とする。
2.7. お値打ち
価格は市場に十分受け入れられるものとする。」

でした。

以下、モーターと内部デザイン、外観デザイン、メイングリップ、サブグリップ、回転数、スタート方式、可逆転式の妥当性、パッドなどに関して、「そこにどんな意図や設計思想が込められているのか?」、「結局、何故、そうなったのか?」を明らかにしていきます。

※4 会議レジュメ。リョービ販売本社にて。1998. 5. 8 文書より。

 

3、史上最強のトルク(モーターと内部デザイン)について

 

最も、重要な目標は「史上最強のトルク」でした。

 当時、開発スタッフで、市販されていたポリッシャのトルク(消費電力=W数)を調べ、史上最強と言えるためには、どのポリッシャを凌ぐ能力が必要かを討議しました。M社、S社、C社など当時主流だった、縦型・横型に関わらず、徹底的に調べました。

おおよそ、当時のリョービ製ポリッシャのPE-1200が550Wでしたので、それ以上であることはもちろん、調査したものの中で最も大きなW数は950Wでしたから、これを目標とすべきという意見の一致を見ました。 結局、1100Wになった分けですが、モーター設計の段階で「コストの側面から現状のモーターを使用すべき」という考えもあったために、650W程しか、出ないかもしれないという、通知(なども来て、随分、不安に思い、悩みました。

 しかしながら、当時の設計の方に話を聞くと、結局、W数の目標値は、「金子が、バフを付けて回転させ、体重を掛けるほどの負荷を掛けても、回転が落ちない」こととなっていた様で、「史上最強のものを目指す」という熱い気持ちが開発スタッフには十二分にあった様です。

 Maiの外観のデザインは、私は好きですし、美しいとも思いますが、ふつうの感覚で判断したら、恐ろしく不格好なものです。 その理由は、モーターから作ったためです。設計の近山さんは、リョービ所有のハンディー工具の、最大の大きさのモーターコアを用い、積層板を適当なW数になるまで、重ねたものを作りました。「外観のデザインのために内部(モーター部)及びケースの内側の設計をゆがめてはならない」、「ともかく、先ず、止まらないモーターを作る、外観は内部の形状を写すだけで、ネジ部や組み立てに必要なパーツはデザインを気にせずに、後から引っ付ける」というのが坂上次長の指示でした。次長は、レシプロソーを初めて作ったグループの一員で、開発には長けていました。Maiの開発では主として、まとめ役とリョービとケヰテックとの窓口になってくれていました。

 ケース内は、クーリングの風が素早く抵抗なく通過するように、真っすぐな円筒に成っていて、それを写した外観は円柱にテールカバーとギヤケース用のネジの穴部の盛りあがりが引っ付けてあるものでした。

その結果、次長と他のスタッフが、出来上がった試作を見たときに思わず発した言葉が、「なんじゃこれはっ!」だったそうです。とても不格好で、世に出せないと思われるほどのものでした。

しかし、最終判断は「ケヰテックの金子が行う」ので、先ず、見せてみようということになりました。 「金子が良いと言えばどんなものでもそれで良い」という意向でした。

しばらくして、 私のところへ、黒いボディの試作機Maiが来ました。

それまでのポリッシャはボディーラインがテールに行くに従って、だんだん狭くなっていく三角形に近いデザインでしたが、カバー部まで真っすぐで寸胴な円柱でした。私はカッコいいと思いました。見苦しいどころか、他のポリッシャとは全然、違うと感じました。

 後からこれらの話を聞いてみると「形態は機能にしたがう」ものとは、このことなのだと納得しました。現在まで、似た形状のポリッシャはありません。

更に、1100Wの消費電力ですが、最大トルクは10N・m/900rpmです。 どのくらいの回転力かというと、例えば50ccの商用単車の最大トルクである4N・mの2.5にあたります。20年以上たっても、未だ、世界中でこれを凌ぐ、トルクのポリッシャは存在しないと自負しております。

※5.1998年5月15日 リョービ販売営業本部よりFAX。